韓国ドラマ『ジョンニョン:スター誕生』は1950年代、韓国を魅了した舞台芸術「女性国劇」に青春を捧げた女性たちの物語です。
キム・テリとシン・イェウンが魅せる圧巻の演技と歌唱力、そして迫力ある劇中劇が織りなす本作は、単なる青春ドラマの枠を超えた傑作。芸術家としての誇りと、人としての成長を描いた12話の感動作を、詳しくレビューしていきます。
全12話を鑑賞し、全身全霊でこのストーリーのメッセージを受け取りました。隙間時間が10分あれば韓ドラを見るドラマヴィータ管理人が解説します。
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『ジョンニョン:スター誕生』の簡単なあらすじ。
1956年の木浦で魚を売りながら暮らすジョンニョンは、女性国劇団「メラン国劇団」の舞台に魅了される。劇団のスター、ムン・オッキョンに誘われ研修生として入団した彼女は、ライバルのヨンソや団長ソボクとの出会いを通じて、自身の演技の才能に目覚めていく。嫉妬と競争の厳しい世界で、国劇のトップ女優を目指して奮闘する少女の物語。
演技と歌の卓越性。
本作の最大の魅力は、間違いなく主演陣の圧倒的な演技力にあります。キム・テリが演じるジョンニョンと、シン・イェウンが演じるヨンソの二人の演技は特筆すべきものでした。彼女たちは単なる役者としてだけでなく、歌手としても素晴らしい才能を見せつけ、観る者を魅了しています。特に劇中劇のシーンでは、その実力が遺憾なく発揮され、まるで実際の舞台公演を観ているかのような錯覚すら覚えるほどの完成度を誇っていました。
日本の宝塚歌劇団の舞台も見たことがなく、韓国の女性国劇を見るのは初めてでしたが、とても心を動かされました。劇中劇の登場人物の立場に共感して涙が出そうになるくらい。
劇中劇の魅力。
本作における劇中劇は、単なる物語の装飾以上の意味を持っています。その演出と構成は非常に洗練されており、独立した舞台作品として成立するほどの完成度を持っていました。実際の劇場で上演されたとしても、十分に観客を魅了できる質の高さを感じさせます。
とくにジョンニョンが房子(パンジャ)役を演じた舞台では、歌と演技に惹きこまれました。本来は目立ってはいけない役だったのでしょうが、圧巻の演技・声でした。
キャラクターの深層。
特筆すべき点は、登場人物たちの芸人としての矜持の描き方にあります。主役ジョンニョンもさることながら、各キャラクターは、芸人としての強い矜持を持ちながら、物語の進行とともにその価値観が変化していきます。彼らが真に守るべきものを模索し、発見していく過程は、非常に説得力のある形で描かれています。
とくに母チェ・ゴンソンが声を失い、歌い手としてのプライドが続けるのを許さなかったのに対し、子ジョンヨンは失った声を演技で埋めると言いました。母の過去が子を助け、子が困難を克服することで母が昔の自分を許せる。この部分の描写は実に見事でした。
夜が明け前に母ゴンソンがジョンニョンを海辺へと連れてゆき、無き声で歌うシーンはとても印象的でした。
重層的な人間関係の描写
1. ライバル関係の複雑さ
ジョンニョンとヨンソの関係性は、単純なライバル関係を超え、互いに高め合う存在となっていました。
最初は、互いの才能を認め合いながらも、決して譲れない芸術的信念の衝突が見られました。しかし、オーディションでの役争いを通じて互いの限界に挑戦し、高め合っていくことで、お互いの存在を必要とするようになりました。敵対関係でありながらも、時として見せる理解と共感の瞬間が心を打ちます。
2. 友情の深化と変容
ジョンニョンとジュランの友情は、本作の感動的な要素でした。
二人は互いの弱さを理解し、支え合う無条件の信頼関係を築きます。しかし、芸人としての力の相違による軋轢、その後の和解に至るまで心情描写が丁寧に描写されており、心を打つものがありました。困難な状況でのふたりの絆と成長が感動を誘います。
ジョンニョンの演技に圧倒され、舞台では隣に立てないと判断したジュラン。しかし、そのことがジョンニョンを追い詰めてしまい、声を失ってしまいました。ジュランは責任を感じ、元の仲の良いふたりには戻れなくなってしまったのはもどかしかったですね。
3. 世代を超えた絆の継承
ストーリーの狭間に挿入される親世代のチェ・ゴンソンとカン・ソボクの関係性を表すシーンは、若い世代の物語をより重厚にしていました。
ゴンソンとソボク、かつての友情が時を経て変質していく過程が所々で挿入されていました。ゴンソンの芸術家としての理想と現実の狭間での葛藤が、ジョンニョンの芸の道を阻みます。ゴンソンの苦難を知るソボクは、ジョンニョンの苦難を救えるのはあなたしかいないと諭します。そして、親の過去が子の困難を救う道となり、世代を超えて困難を乗り越える知恵が継承されていきました。
4. 劇団という共同体における人間模様
劇団員たち全体の関係性も、物語の重要な要素です。個々の野心と団体としての結束力のバランスが巧みに表現され、劇団という共同体における人間模様が丁寧に描かれていました。オッキョンとヘランという絶対的主演の存在と、彼女らに憧れつつあとに続こうと努力する劇団員たち。しかし、それぞれの心境は、平らな面ではなく、浮き沈みする波のように変化したのです。
主演ふたりにしても、関係に次第に亀裂が入り、崩れていく様子が印象的でした。オッキョンは同じような役の繰り返しに辟易し、ヘランは後輩たちの成長に恐怖を感じ執着を捨てられませんでした。
反対に、本舞台に上がれない研究生たちは、最初は出自からジョンニョンを爪はじきにしましたが、やがてジョンニョンの能力を認め、協力し合うようになります。
これらの複雑な人間関係は、単なる対立や協調という単純な構図を超えて、より深い人間理解と芸術家としての成長を描き出すことに成功しています。各関係性は独立して存在するのではなく、互いに影響し合い、物語全体を豊かな人間ドラマへと昇華させています。
ストーリーの短さに改善の余地。
12話という比較的短いエピソード数は、物語の密度を高める効果がある一方で、いくつかの重要な側面をより深く掘り下げる機会を失わせている面もあります。特に、劇団の重要なメンバーであるオッキョンとヘランの背景ストーリー(創立時のエピソードや劇団に入る前のふたりの様子など)をより詳しく描くことができれば、物語の厚みがさらに増したのではないでしょうか。
まとめ:総評
本作は、芸術家としての誇りと人間関係の機微を見事に描き切った秀作です。演技、音楽、脚本のいずれもが高い水準で調和しており、短いエピソード数ながら、観る者の心に深い印象を残す作品に仕上がっています。
劇中劇の質の高さは特筆に値し、圧巻の迫力は、作品の質をさらに押し上げ、ドラマという枠を飛び出してしまいそうな程でした。
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